サヴィル・ロウが仕立てる「完璧な鎧」ではなく、身体の歪みさえ受け入れる「ソフト・テーラリング」。NYウエストヴィレッジにアトリエを構えるジェイク・ミューザーが解き明かす、セルジュ・ゲンスブールのように力みのない、真のスタイルとオーラの秘密とは?

Chase Winfrey
「体重、落ちましたね」。ジェイク・ミューザーがそう言いながら、私の胸囲にテープを巻きつける。
落ちてはいない。彼もそれはわかっている。だが、スーツとはこうやって売るものだ。
5月の穏やかな水曜の午後、クリストファー・ストリートにある彼のアトリエの2階。ダウンタウンにおけるサヴィル・ロウと呼ぶに最もふさわしい空間だ——アンティークの三面鏡、パッチワークのように敷かれたペルシャ絨毯、天井まで届く本棚。ジェイクが生地の選択肢を引き出してくる。淡いグレー、クリーム色のリネン、9月まで使えそうなやや厚手のトープ。そしてオリーブのリネンを掲げると、一言も発しない。議論はおおむねそこで決着した。今日、彼は今夏のオーダーのために私の採寸をしている。ダブルブレスト。昼に着て、そのままディナーにも通用する一着。
ジェイク・ミューザーとは?ジェイクはニューハンプシャー育ち。90年代後半にボストンでパンクのライブに通い、やがてFIT(ファッション工科大学)に進んだ。そこでステージ衣装のデザインを学び、ステラ・ゾティスのもとで修業を積んだ。ステラはデビー・ハリー、ジョーン・ジェット、セバスチャン・バック——登場の瞬間に場を支配する必要のある者たちを手がけてきた人物だ。ジェイクの最初のレーベルは、その系譜を継ぐシアトリカル(演劇的)な路線だった。だがやがて、クラシックなメンズウェアへと大きく舵を切る。
ノイズを減らし、シグナルを際立たせる。

ジェイク・ミューザーに採寸される筆者。
彼とはかねてからの知り合いだ。共通の友人であるコディ・プルーイット——かつてウエストヴィレッジで議論の余地なく最も艶めいたフレンチビストロ「リバティーン」のオーナーであり、現在は「シャトー・ロワイヤル」と「キャピテーヌ」のオーナー——が数年前に引き合わせてくれた。テーラリングにこだわる男たちとホスピタリティ業界の男たちは、驚くほど重なる。どちらも夜になると本領を発揮する。装うことの意味が増す時間帯だ。その言語を操り、確かな審美眼を持つ人間に出会ったなら、手放さないに限る。
「この非対称を受け入れましょう」とジェイクが言い、私の両肩のわずかな高さの違いを指摘する。自分では一度も気づいたことがなかったが、これから先の人生、毎朝それを意識することになるだろう。まるで医師がやや悪い知らせを伝えるときのような口調だ。冷たいわけではないが、何度も同じ症例を診てきた者だけが持つ、静かな確信がそこにある。

その言語を操り、確かな審美眼を持つ人間に出会ったなら、手放さないに限る。
「サヴィル・ロウは完璧を追求する世界です。鎧のようなもので、パッドを増やし、構造を増やし、胸板を作り上げる。男性の理想像を意図的に近似させるわけです。あれは“本物”じゃない」。彼は自分のジャケットの非構築的なショルダーを見せてくれる。
「ここはクリストファー・ストリートです。私がやっているのは“ソフト・テーラリング”。スーツは身体の上に自然に掛かるべきであって、身体を別の何かに造り変えるものではない。着心地と自信はつながっています。男は、頑張りすぎているようには決して見られたくないものです」
「セルジュ・ゲンスブールのように」と私は言う。まるで論理的に導かれた結論であるかのように。
だが、私にとっては確かにそうだった。その数日前、「リバティーン」最後の営業日の夜、コディと私はセルジュについて熱のこもった会話を交わしていた。向かいの壁には、くすぶるような色気を湛えた彼のポートレートが掛かっていた。世間一般の基準で言えば、最も魅力的な容姿の男とは言いがたい。客観的に見れば、むしろその対極だ。しかし、実際に会った者、映画を通じて見た者、半世紀にわたる写真を目にした者の誰一人として、あの男に圧倒的な存在の引力がなかったとは言えまい。

クリストファー・ストリートのJ. ジェイクの店先で語り合うジェイクと筆者。
表面張力の奇跡のように唇からぶら下がる煙草は、物理法則と礼儀作法の両方に逆らっている。半ば閉じたまぶたは、世界がいま差し出しているものに対して、わざわざ開く気がないと言わんばかりだ。無精ひげは伸ばしたのではなく、ただ許されている。襟元は品位を一つ超え、弁解を二つ超えたところまで開いている。
「セルジュは非構築的だった」とジェイクは言う。「パッドもない、芯地もない。ただ男が自分自身の骨格に掛かっているだけ」
他人の承認にまるで関心を持たない男——もちろん、それこそが承認を手に入れる唯一の方法なのだが。パンクロック育ちのテーラーの口から語られるとき、それはパラドックスというよりひとつの哲学になる。
頑張りすぎないことが、最高の頑張りである
「着心地と自信はつながっています」とジェイクは語る。「男は、頑張りすぎているようには決して見られたくないものです」
「うちに一人、同僚がいましてね」とジェイクは言う。テープメジャーを私の足首から、互いの信頼を要するあたりまで走らせながら。「映画も現代カルチャーもまったく追っていない人間なんです。有名人が店に来ると、後で『あの人、すごくクールだったね』と言う。で、私が『ああ、あの人は映画に出てるんだよ』と教える。彼は一度も気づかない。ただ存在感を感じ取っている。あれは何なんでしょうね? オーラですか?」
「オーラだ」と私は同意する。何も説明しないからこそ便利な言葉だ。あらゆる文脈を剥ぎ取った後にもなお残る何か。それを各世代が独自の名で呼んできた——カリスマ、マグネティズム、プレゼンス、“イット”。美しさや地位を取り除いてもなお、ごく少数の人間がそれを宿している。
「服は無関係ではない」と私は口を挟む。
「だが、源泉ではない」とジェイクは譲らない。
これこそが、ジェイクの哲学の純粋なかたちだ。頑張りすぎないことが、最高の頑張りだということ。だからこそ皮肉なのだ。その哲学をあえてスーツという、体制側の最も信頼されたコスチュームを通じて表現することを彼が選んでいるのだから。
「皮肉は承知しています」と彼は言うが、気もそぞろだ。私のスーツの何かが引っかかっている。失礼します、と言って通りを渡り、数分後にサマーウールの生地を抱えて戻ってくる。もはや眼科の視力検査の最後のスライドのようなものだ。1か2か、2か1か。私には違いがわからない。だが、検眼医のほうはとっくに決めていて、ただ礼儀として聞いているだけだ。ジェイクはウールを選ぶ。
「スーツは、ステレオタイプ的な意味でのパンクロックとは正反対です」と彼は続ける。「パンクスがいて、スーツ族がいる。でも、ポール・ウェラーとザ・ジャム、ニック・ケイヴとザ・バッド・シーズを見てください。彼らはテーラードの服を着ていたけれど、保守的には見えなかった。クールだった。パンクから出発して、もっと面白いものへと成熟していった者たちが大勢いる。スーツはその一部だったんです」
ビートルズ、ストーンズ、オアシス——最初の大型レコード契約の後には、サヴィル・ロウが待っていた。降伏ではない。転覆だ。
ジェニー・ホルツァーの言葉が的確に言い当てている——「文化の中で支配的なものを使え。それが変革を最も速くする」。そして西洋文化において、スーツほど支配的な記号はそう多くない。
近づくことで初めて報われるディテール
筆者のスーツをより間近で。
「語彙を理解すれば、それを自由に操れるようになる」とジェイクは言う。「どこを攻めて、どこをクラシックに留めるか。それを自分で決めるんです」と、ポケットフラップに沿って指を走らせる。
「標準的なフラップは1インチ4分の3(4.45センチ)くらいでしょう。それを2インチ4分の1( 5.715センチ)にする。小さなこと。でもそれが、主張せずにスーツに態度を与える。通りの向こうからすべてが見えるようなスーツには興味がないんです。近づいてきた人が『ん? これは何だ?』と気づく。良いスーツは、ゆっくりとその正体を明かすものです」
近づくことで初めて報われるディテール。部屋の向こうからはただのスーツに見える。近くに寄ると、それは会話になる——生地の重み、ドレープ、絶妙な位置に収まるショルダー。パブリックな空間における、プライベートな言語としてのスタイル。
鏡の中の自分を見る。チョークの線。ピンで留められた生地。修正を待つ身体。ここが、服がついに人間と出合う場所だ。スーツは理想を押しつけることもできれば、与えられたものをそのまま受け入れることもできる。自らを声高に宣言することも、ゆっくりとその正体を明かすこともできる。間違った手にかかればコスチューム、正しい手にかかれば流暢な言語になる。
「ネイビーブレザーは、世界で最も退屈なものになり得ます」とジェイクが言い、近くのハンガーから一着を取る。自分のジャケットを脱ぎ、それを羽織り、微笑む。
同じジャケットでも、まとう男で別物になる。
Source / Esquire UK
Translation / エスクァイア編集部
※この翻訳は抄訳である
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